大腸菌ファージ測定法

東大都市工 版


0.はじめに

     大腸菌ファージの測定法を示す。この方法は上水試験方法、下水試験方法に記述されているバクテリオファージ測定方法とは、宿主菌として既知の大腸菌を使うという点で異なっている。試料中のファージ濃度が低濃度(数個/mL以下)であるような試料は、50mLもしくは100mL法を用いて測定する。比較的高濃度(数個/mL以上)であると考えられる試料は1mL法で測定する。

  1. 培地および希釈液の組成
  2. 1.1 大腸菌ファージ用液体培地(ホスト用大腸菌培養にも使用)

     水1Lに以下のものを溶解する。

      ポリペプトン 10g
      酵母エキス 5g
      MgSO4・7H2O 0.2g
      MnSO4・4H2O 0.05g
      ブドウ糖 1.5g
      NaCl 5g

     この溶液はホストとなる大腸菌を測定の際に培養するための培養液として用いる。また、測定の際の希釈液としても用いることができる。どちらの場合も適量を試験管に分注した後、高圧蒸気滅菌3)しておく。

    1.2 上層寒天培地

      1.2.1 1mL法用
       水750mLに大腸菌ファージ用液体培地と同じものを同じ量だけ溶解する。すなわち濃度が4/3倍のものを作る。
       さらに、その溶液に粉末寒天1)2)6gとCaCl20.9gを加えて加熱溶解する。
       3mLずつ試験管に分注し、高圧蒸気滅菌3)をかける。この上層寒天培地は常温で保存してよい。ただし、使用の都度、融解して45℃のウォーターバスで保温して使用する。

      1.2.2 100mL、50mL法用
       水500mLに大腸菌ファージ用液体培地と同じものを同じ量だけ溶解する。すなわち濃度が2倍のものを作る。
       さらに、その溶液に粉末寒天1)2)6gとCaCl20.9gを加えて加熱溶解する。
       50mL法の場合は50mLを100mL用耐圧ガラス瓶に、100mL法の場合は100mLを200mL用耐圧ガラス瓶に分注し、高圧蒸気滅菌3)をかける。この上層寒天培地は常温で2ヶ月程度保存できる。ただし、使用の都度、融解したのち48℃のウォーターバスで保温して使用する。

    1.3 下層寒天培地

     1.1の大腸菌ファージ用液体培地と同じものに粉末寒天11gを加えて加熱融解する。その後高圧蒸気滅菌する。この溶液は、45℃〜50℃に保温して保存できるが、2週間が限度であろう。常温ならば固化するが2ヶ月程度保存できる。測定の1〜2日前にあらかじめ滅菌したシャーレに10mL程度ずつ投入し、プレート全面にならして常温で固化させておく。なお100mL、50mL法には下層寒天培地は必要ない。

    1.4 希釈液

      ・1.1の大腸菌ファージ用液体培地
      ・上水試験法(p.463)に記載されているリン酸塩緩衝希釈水
      ・ペプトン1.0g/L溶液

      のいずれかを用いる。それぞれ適量ずつ試験管に分注し高圧蒸気滅菌3)をかける。

      注1) ペプトンが一般的であるが、本研究室ではポリペプトンを使用しており良好な結果を得ている。
      注2) この粉末寒天の量はDIFCO社製BACTO AGARを用いた場合、また上層寒天培地は夏場(室温が高い時)は固化しにくくなるので、1〜2割程度増した方がよい。
      注3) 121℃で20分間


  3. ホストの培養法&保存法
  4. 2.1 ホストの保存法

      2.2.1 短期保存用
       上水試験法(p.470)に記載されている平板塗抹法により塗抹した後培養する。塗抹する平板は1.3の下層寒天培地を用いる。培養は37℃で、24〜27時間行う。その後、シャーレごと冷蔵保存する。乾燥させないよう密封する必要がある。一ヶ月程度は保存できるが、一ヶ月おきにコロニーより釣菌して同様の手順により培養し、植え継いでいく。
      2.2.2 長期保存用  下記の2.2に従って培養した大腸菌溶液にグリセロールを体積比25%になる様に溶解し、-70〜-80℃で保存する。

    2.2 測定の際のホストの培養法

     2.1で述べたシャーレ上に形成しているコロニーを釣菌して、上述の1.1に示した大腸菌用培地に懸濁させる。よく撹拌した後、37℃で3〜4時間振とう培養を行う4)。振とう機がない場合はインキュベーターで37℃で培養する。1〜2時間おきに撹拌すれば、4〜5時間で培養できる。

      注4) この培養時間はE.coli K12 F+(A/λ)、E.coli Cを用いる場合である。これで濃度は約107CFU/mLとなる。

      →測定タイムスケジュールはこちら


  5. 試料の前処理
  6. 3.1 懸濁物の少ない試料の場合

     測定を阻害する細菌類の除去のために膜ろ過による除菌を行う。測定に必要な試料(1mL法ならば10mL、50mL、100mL法ならばそれぞれ50mL、100mL)を測りとり0.45μm膜5)を用いて吸引ろ過を行い、滅菌済み試験管などにろ液を保存しておく。膜面上に残存する懸濁物からは誘出液を用いてファージを誘出し、ファージ濃度を測定する。誘出法は後述の3.3ファージの誘出法を参考にせよ。

    3.2 懸濁物の多い試料の場合

     懸濁物が多くてすぐに目詰まりしてしまう場合は、ろ過の前に懸濁物と溶液を遠心分離機により分離6)してから上澄水をろ過する。ろ過法は上述の通りである。遠心分離により沈殿した懸濁物と0.45μm膜上の懸濁物はファージの誘出を行う。ファージの誘出は3.3ファージの誘出法の通りである。

    3.3 ファージの誘出法

     現在、ファージの誘出液として最適であるものは確立していないが、ここでは3%ビーフエキスを用いた誘出法を紹介する。

      3.3.1 3%ビーフエキス液
       ビーフエキスを3w/v%になるように水に融解し、NaOHを用いてpHを9.5に調製する。適量を試験管などに分注した後、高圧蒸気滅菌し常温で保存する。

      3.3.2 誘出法
       ろ過後の膜を3%ビーフエキス液の入った試験管に投入し1分間激しく撹拌する7)。その後、再び0.45μm膜を用いてろ過を行い、ろ液のファージ濃度を1mL法で測定する。
       遠心分離後の沈殿懸濁物は3%ビーフエキス液を投入し1分間激しく撹拌する。その後、0.45μm膜を用いてろ過を行い、ろ液のファージ濃度を1mL法で測定する。

      注5) セルロースアセテート膜もしくは、混合セルロース膜を用いている
      注6) 4000rpm×10分間(g値=2.5×103g)でおこなう。
      注7) vortex撹拌機を用いる。

      →試料前処理手順フローチャートはこちら


  7. ファージの測定(1mL法)
  8. 4.1 測定前準備

    測定前に以下のものを揃えておく。

      ・溶解済み45℃保温状態の上層寒天培地
      ・下層寒天培地
      ・37℃で培養済みのホスト用大腸菌
      ・滅菌済み希釈液
      ・滅菌済みメスピペット(5mLが最適)

    4.2 測定手順

    1.  試料をよく撹拌し、希釈液を用いて所定の倍率まで希釈する。
    2.  希釈した試料1mLを下層寒天培地の入ったシャーレに投入する。
    3.  上層寒天培地にホストとなる大腸菌を約0.25mL投入し、軽く撹拌する。
    4.  ホストを混合した上層寒天培地をシャーレに投入し、プレートの全面に広げるようによくかき混ぜる。この時、蓋に寒天培地がつかないように注意すること。
    5.  静置凝固させた後、37℃インキュベーターで16〜24時間培養する。
    6.  計数を行う。30〜300のプラック(溶菌斑)が形成した希釈倍率のプレートの平均値を持ってファージ数(単位はPFU/mL)とする。

      →1mL測定手順フローチャートはこちら


  9. ファージの測定(50、100mL法)
  10. 5.1 測定前準備

    測定前に以下のものを揃えておく。

      ・溶解済み45℃保温状態の試料と同量の上層寒天培地
      ・滅菌済みシャーレ(空)
      ・37℃で培養済みのホスト用大腸菌(5mL)

    4.2 測定手順

    1.  試料をあらかじめ37℃に加温しておく(上層寒天培地と混ぜたときに、温度が下がって固化するのを防ぐため)
    2.  上層寒天培地にホスト用大腸菌を静かに投入し、泡立たないよう静かに混合する。
    3.  上層寒天培地に試料を投入し、泡立たないよう静かに混合する。
    4.  速やかに、滅菌済みシャーレに一枚あたり10mLずつ投入し、プレートの全面に広げる。
    5.  静置凝固させた後、37℃インキュベーターで16〜24時間培養する。
    6.  計数を行う。全プレートのプラック(溶菌斑)を数えて合計してファージ数とする。



文責)大瀧雅寛
協力)片山浩之、中村みやこ



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